刑事無罪事件、少年無罪(非行事実無し)事件

■自動車事故に関する業務上過失傷害罪で無罪主張。警察の実況見分調書の信用性に疑問があり、他の証拠から見ても犯罪の証明がないとして無罪となったケース

【事案】 依頼者は、交差点を右折する際に左方道路の安全を確認せず、左方から直進してきた相手車両が衝突を回避しようとして交差点脇の信号に衝突し、相手車両の運転者と同乗者を負傷させたとして業務上過失傷害罪(当時)で在宅起訴された。しかし、依頼者は右折する際に左右道路を十分確認しており、左方の車両は確認したが距離があったので十分間に合うと判断して右折したので過失はないとして、無罪を主張。

裁判では、事故現場の実況見分を担当し調書を作成した警察官や、その上司に当たる警察官に対する詳細な証人尋問を行った。その結果、実況見分調書の指示説明欄に、依頼者が相手を最初に発見した地点やその時の相手の地点が記載されていない点についての合理的な説明がされず、依頼者の車両について実際には見分していないのに見分したかのような記載があること、実況見分調書の訂正印が押されていないこと、現場の写真が一切撮影されていないこと等が判明した。

判決では、警察官には事件処理に対する真摯な姿勢に欠けるばかりか、事故についての捜査上の問題点や争点について、ある程度の見通しを立てて実況見分に当たっていたのか疑問であるとの厳しい指摘があり、警察官及び相手方の証言の信用性に疑問があること等から犯罪の証明がないとして無罪が言い渡され、確定。

【コメント】依頼者は事故当初から一貫して、自分が事故を起こしたという認識はありませんでしたが、事故から半年後に事故証明書で出合い頭事故となっていることを知り、警察に抗議したことから捜査が進んだという経緯がありました。

事故現場における実況見分(じっきょうけんぶん)の内容を記録化した実況見分調書は、事故の痕跡を保存する極めて重要な証拠ですが、その記載内容がいい加減であれば正確な事故状況の判断は困難になります。人身事故の場合、双方運転者に対して事故現場での指示説明が求められますが、民事の賠償請求においても裁判所は実況見分調書の内容を極めて重視しますので、記憶の喚起と正確な指示説明、正確な証拠化が不可欠といえます。

また、本件では依頼者本人の供述調書について真意に沿わない記載となっている部分があり、その点の信用性も争いました。ご自分が警察署や検察庁で話した内容は、供述調書(きょうじゅつちょうしょ)に記載され、間違いないことを確認し署名押印することで後日の裁判での証拠とされます。裁判で「あのときの説明は間違っていた」と主張しても、署名押印がある以上は供述の不合理な変遷(へんせん)としてなかなか認められません。

供述調書に署名押印する際には、自分の言い分が正しく記載されているか、誇張はないかなどよく確認することが不可欠です。

 

■自動車運転過失傷害、道路交通法違反(ひき逃げ)の少年事件。目撃者や同乗者の供述、運転を認めた少年の供述はいずれも信用できず、非行事実なし不処分となったケース

【事案】少年は、深夜に自動車を運転して交差点を左折する際、横断歩道を自転車で進行してきた被害者に気づかずに衝突し、負傷させたものの救護せずに去ったとして自動車運転過失傷害(当時)及び道路交通法違反(ひき逃げ)にて、家庭裁判所に送致された。

しかし、少年は事故当時車の中で眠っており、運転したのは友人だが、その友人をかばうために自分が運転していたと嘘をついていた、本当は自分は運転していないと主張。

少年審判では少年の友人に対する証人尋問が行われ、少年と友人との関係、当時の友人の容姿や運転状況、警察での取り調べ状況、嘘をついていたことを認めた際の警察の対応等を詳細に尋問した。また、当時の少年と友人が写っていた写真や車両の状況を報告書として提出したほか、目撃者の供述調書、友人の供述調書、少年の供述調書のそれぞれの疑問点を詳細に指摘した意見書を提出した。

裁判所は、目撃者が運転者の顔を見たのは短時間で、街灯はあっても日中ほど明るくはないので顔の判別は難しい、顔立ちの特徴は供述しておらず、後に警察署で少年の姿を確認した際も「似ている」というにすぎず、髪型の特徴が似ていた少年を運転者と軽信した可能性があり、目撃者の供述は決定的な証拠にはならないと指摘した。

その上で、友人は当初自分が運転していたと認めていたのに、警察が「目撃者の証言と違う」と指摘されたため少年が運転していたと供述したこと、友人は違反点数が重なっていたので嘘の供述をする動機があること、少年に対する取り調べの際に警察官からの誘導があったと考えられるので、少年の自白調書も信用できないこと等を指摘し、少年について非行事実を認定することはできないとして不処分(非行事実なし)を言い渡した。

【コメント】少年は本件事故当時運転はしておらず、最初に警察署で事情を聴かれたときにも「自分は運転していない」と説明していたのですが、警察は事故目撃者の供述内容から少年が運転していたことに間違いないと決めつけ、否認を続けるなら逮捕するしかないとほのめかしました。少年が友人に確認すると、友人は自分が運転していたことを認めたため、友人をかばうために少年は自分が運転したと嘘をついたということでした。

警察は、目撃者の目撃内容について慎重に吟味することを怠り、少年の容姿と友人の容姿の特徴がよく似ていたのに目撃者が見誤った可能性を全く考慮しませんでした。目撃者の供述は犯人や犯行の特定に際して重視されますが、客観的な状況、目撃者の認知、判断、記憶の状況、目撃内容等を慎重に吟味する必要があります。この点の捜査を尽くしていれば、思い込みによる捜査はされなかったでしょう。

また、一般に少年は成人に比して防御能力が低いため、捜査官による誘導、暗示に影響を受けやすいことが指摘されています。「嘘をつくなら逮捕する」といわれれば動揺するのも当然です。本件では家庭裁判所送致の段階で少年が本当のことを説明し、友人も真実を証言したことで少年の主張が認められましたが、警察の思い込みによる捜査の怖さを改めて認識しました。