前提問題の争い・相続人の不存在

Q 父が亡くなり遺産の整理をしていたところ、10年ほど前に買った土地を弟名義にしていたことが判明しました。どうやら弟が家を建てる時のために買ったもののようです。遺産分けの話をすると、弟は「この土地は自分のものだ。遺産ではない」と言いますが、弟はお金を出さず、固定資産税も父が払っていたようですので、私や妹はこの土地も遺産に含めるべきだと考えています。どうすれば遺産と認められますか。

A 遺産分割の調停をして土地が遺産であることの合意を得るか、土地が遺産であることの確認を求めて訴訟を提起し、裁判の結果をふまえて遺産分割の調停をする方法があります。

 

遺産分割の前提問題の争い

お尋ねの土地は弟名義ですから形式上は弟の土地ですが、取得のお金を父が出し、税金も父が払っていたというのですから実質は父の遺産ともいえそうです。

このように、そもそも遺産の範囲に含まれるのかについての争いがある場合、解決方法としては2つ考えられます。

 

まず、前提問題を家庭裁判所の手続で解決する方法です。

遺産分割の調停を申立て、話し合いの中で当該土地が父の遺産であることの合意形成を目指します。合意が成立すれば、当該土地も含めて遺産全体をどのうように分割するか協議すればよいのです。

なお別項でご説明のとおり、遺産分割が不調となると審判に移行します。審判に対して誰も不服申立(即時抗告)をしなければ、審判は確定します。

ただし、このような前提問題は本来民事訴訟で解決すべきとされており、審判結果に不満な当事者は別に訴訟を提起して争うことができます。その結果、訴訟で審判の効力がひっくり返されることもあるのがデメリットです。

 

そこで、最初から訴訟を提起して前提問題を解決する方法があります。

この場合の訴訟とは、当該財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えとなります(いわゆる遺産確認の訴え)。訴訟には相続人全員が原告又は被告として関与する必要があります。

訴訟の結果、土地が父の遺産に属すると確認されれば、これを前提に遺産分割の調停や審判で解決を求めることになりますが、解決するまでに多大な労力と時間がかかることがデメリットです。

 

あなたのケースでは、弟さんと条件面も含めて話し合い解決の余地があるのなら、まずは遺産分割の調停を申し立て、調停の中で土地の扱いを協議するのがよいでしょう。

他方、弟さんの意思が固く容易に話し合いができそうにないのなら、まずは土地が父の遺産であることの確認を求める訴えを提起し、土地が遺産か否かを確定させた上で、次なる手段(調停、審判)に移らざるを得ないでしょう。

 

 

Q 夫が昨年亡くなりました。20年前に一緒に暮らし初めた当時、お互い50代で私も仕事をしていて姓が変わるのが不便でしたので、入籍はしていません。夫に親兄弟はいませんが、遺言もなく、夫名義の自宅や預金等を私名義に変えようとしても相続人でないため難しいと聞きました。私が夫の自宅や預金をもらう方法はないでしょうか。

A 相続人の不存在を前提に相続財産管理人の選任手続を行い、その後、特別縁故者として相続財産の分与を申し立てる方法があります。

 

特別縁故者に対する相続財産の処分制度

相続人の範囲については民法に定めがありますが、別項でもご説明のとおり、戸籍上の夫又は妻でなければ相続権のある配偶者にはあたりませんので、残念ながらあなたに相続権はありません。また夫には相続人に該当する方もいないようです。

 

相続人がいない場合の故人の遺産は国(国庫)に帰属するとされています。しかし、故人の周囲には、故人と生計を同じくしていた者や故人の看病・世話をしていた者など、故人の財産を取得させても故人の遺志に反しないような縁のある方がいるケースがあります。

このような被相続人に縁故があった者からの申立により、家庭裁判所が相当と認めるときは、相続財産の全部又は一部をその者に分け与えることができるとされています。これを「特別縁故者」に対する相続財産の処分制度といいます。

 

特別縁故者として認められたケースには、内縁の夫・妻、事実上の養子・養親のほか、同居していた継母、叔父などがあります。また故人が長年勤務していた社会福祉法人、故人が設立した学校法人、菩提寺である宗教法人、地方自治体など、自然人以外にも認められています。

 

ところで、特別縁故者が上記の申立をする前提として、相続人が不存在であり、相続人に代わって相続財産の管理人が選任されている必要があります。詳しく説明します。

 

相続財産の管理人制度

相続人がいるかどうかはっきりしない場合、利害関係人は家庭裁判所に相続財産の管理人((以下、管理人といいます。)を選任するよう請求できます。故人にお金を貸していた方、アパートを貸していた大家等が当たります。特別縁故者ももちろん申立ができます。

「相続人の有無は、戸籍を見れば明らかじゃないか!」とは一概に言えません。例えば婚外子は父の死亡後3年間は認知の請求ができますので、父の死を知って名乗り出てくるケースも考えられます。他方、生前に交流のない故人のおい、めいが法定相続人の場合、面倒な関わり合いを避けようと相続の放棄をすることもあるため、後から遡って相続人がいなくなったということもよくあります。

 

管理人が選任されると、家庭裁判所は官報という国が出す新聞に公告します(詳しくは、国立印刷局が提供しているインターネット版官報をご覧ください)。

公告後2か月以内に相続人が現れなければ、管理人は清算手続きに着手します。2か月以上の期間をおいて、管理人は相続財産の債権者や受遺者に対して請求の申出をするよう公告します(個別に分かっている債権者等には、個別に通知します)。

以上の2度にわたる公告によっても相続人のあることが明らかにならないときは、家庭裁判所は管理人の請求により相続人をさがすために6か月以上の期間を定めて公告します。この間に相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定します。

 

その後、管理人はまずは申出のあった債権者に対してその優先順序に従って支払を行い、その後に受遺者に対する支払をします。

それでも財産が残る場合、ようやく特別縁故者への分与が現実化します。分与を主張する者は、3度目の公告期間の満了後3か月以内に、家庭裁判所に相続財産分与の申立をしなければなりません。

家庭裁判所は管理人の意見を聴いて、一切の事情を考慮し、分与をするか否か、分与する場合の内容を決定(審判)します。

 

特別縁故者に不動産が分与された場合、分与を受けた者は確定審判に基づいて単独で移転登記ができます。また預金等も分与されていれば、審判書を銀行に示して払い戻しに応じてもらうことが可能です。

最後に、税法上は分与財産は贈与ではなく遺贈により取得したものとみなされています。多額の財産を取得した場合、相続税の課税対象となりますのでご注意ください。

 

あなたのケースでは仮に夫の債権者への支払があるとしても、特別縁故者として遺産の分与を受ける可能性は十分あると考えます。弁護士によく相談の上、申立手続きをするかどうかご検討ください。