請求できる人身損害 - 後遺症逸失利益・将来介護費

Q 交通事故に遭い、大腿骨骨折等の大けがをしました。リハビリに励んだ甲斐があって松葉杖なしに歩けるまでに回復しましたが、まだ痛みがあります。医師からは「後遺症が残るだろう」と言われましたが、後遺症とは何ですか。後遺症があればどのような請求ができるのですか。

A 後遺症(こういしょう)とは、受傷後に治療をしたにも関わらず完全には回復せず、身体や精神の機能に不完全な状態が残ることをいいます。

後遺症の損害とは

後遺症が残るということは、事故以前のあなたの状態を100パーセントとした場合に100パーセントの状態まで回復していないということを意味します。そこで、その部分に対応する損害を見積もって加害者に賠償を求めることができるとされています。

具体的には、将来の収入減少を見積もった逸失利益(いっしつりえき)、将来にわたり精神的苦痛を受け続けることを見積もった後遺症慰謝料、この2つが主たる損害です。

 

後遺症の損害を認定するには、まずは「自賠責調査事務所」による後遺障害の認定手続に付す必要があります。なお、自賠責保険では、傷害が治ったときに身体に存する障害のことを後遺障害といいます。

あなたが症状固定の状態にあると思われる場合、加害者の保険会社からは後遺障害の認定のための診断書を主治医に作成してもらうよう説明があります。

調査事務所では、後遺障害診断書のほか、保険会社から送られてくる診断書、診療報酬明細書、画像(レントゲン、CT、MRI等)を検討し、原則として労災における等級認定基準に準じて1級から14級までの等級認定を行います。

認定できない場合は非該当となります。

 

保険会社は、示談交渉では上記の後遺障害等級認定に従って後遺症の損害を算定し(等級が上であるほど金額も大きい)、非該当であれば損害を認めません。あなたは認定等級や非該当の結果に対して、調査事務所に異議申立をして再判断を求めることができますし、最終的には裁判で後遺症の存否、程度を争うこともできます。

 

裁判所は調査事務所の等級認定を判断の有力な材料としていますが、必ずそれに拘束されるものではなく、あなたの職業や傷害の具体的な状況をふまえて後遺症の損害を判断することとなります。ただし、等級認定とは別の判断を裁判所に求めるにはかなりの努力が必要となるのが実情です。

よって、できるだけ等級認定の段階で、有利な等級を獲得することが必要といえます。

 

 

Q 40代パートの主婦ですが、追突事故に遭い頚椎捻挫、腰椎捻挫で通院治療を続けました。半年後、保険会社から治療費の支払いを打ち切りたい、後は後遺障害の等級申請をしてくださいと言われ、応じました。先日、保険会社から14級の認定が下りたとして示談書が送られてきました。後遺症の損害については75万円との記載がありましたが、どうして75万円なのですか。後遺症の計算はどうなっていますか。

A 前項でもご説明のとおり、後遺症の損害には逸失利益と慰謝料があります。慰謝料は認定等級によってほぼ決まっていますので、ここでは逸失利益についてご説明します。

 

後遺症の逸失利益とは

逸失利益とは後遺症があることによる将来の収入減少を見積もった損害のことです。事故前の状態を100パーセントとすると、症状固定の時点で将来においても回復困難と見込まれる精神・身体の毀損(きそん)状態があり100パーセントの回復がないため、その差額分を損害と見積もるイメージになります。

具体的な算定方法ですが、基礎収入 × 労働能力喪失率 × 喪失期間に対応するライプニッツ係数、というのが一般的です。詳しく見てみましょう。

 

基礎収入

被害にあった方の事故前の収入額です。原則は事故前の現実収入額ですが、それ以上の収入を将来得られると認められれば、そちらが算定の基礎とされます。

 

労働能力喪失率

後遺症によりどの程度労働に差し支えるかを割合で示したものです。自賠責保険の後遺障害等級では、1級の100パーセントから14級の5パーセントまで規定されています。

裁判となった場合、この割合で認定されることが多いですが、必ずこれに拘束されるものではなく、職種、年齢、性別、後遺症の部位・程度、事故前の稼働状況等を総合的に判断して具体的に当てはめる必要があるとされています。

 

喪失期間に対応するライプニッツ係数

ある一定の金銭を現時点からX年間継続的に得る場合に、それを現時点で一括してもらうとしたらいくらに換算されるか、という観点で算出した係数です。

ちょっと難しいですが、逸失利益は本来将来に向かって継続して発生するものですが、損害賠償においては現時点の一時金として算定します。そうすると、理屈上は複利運用が可能ですのでこれを割り引く必要があります(中間利息の控除といいます)。この割引は現在年5パーセントで計算するとされており、実務上、複利年金原価表を利用しています。

 

例えば、喪失期間が10年だと7.7217、20年だと12.4622となっており、単純に10倍、20倍にはならないのがポイントです。現下の金利状況からそんな運用はできないとの批判がありますが、裁判所はこの基準を採用しています(なお、民法の改正によって今後は変化する予定です)。

 

次に喪失期間がどの程度かが問題になりますが、原則としては就労可能年限までとされており、一般には67歳までです。

ただし、大きな例外があります。頚椎や腰椎のむち打ち症については、裁判所は12級の場合で5年ないし10年、14級の場合で最大5年に期間を制限するのが一般です。神経症状についてはいずれ和らぐ、あるいは就労へ適応する(慣れる)などが考慮され、長期間の労働能力喪失は認めにくいとの判断のようです。

 

実際の計算例

以上を前提に逸失利益を計算してみましょう。

前提としてあなたの年収を100万円、労働能力喪失率を5パーセント、労働能力喪失期間を5年、対応するライプニッツ係数4.3295を用いることとします。

【計算式】 1,000,000円×0.05×4.3295=216,475円となります。

これに14級の後遺症慰謝料(例えば40万円)を加えても、自賠責保険の14級の保険金限度額75万円を超えません。

 

ただし、自賠責保険では後遺障害は5年で消失するとは考えません(永久残存性といいます)ので、5年以上の喪失期間で計算すれば、自賠責保険の後遺症慰謝料32万円を加えて75万円を超過することが見込まれます。したがって、保険会社としては自賠責保険の上限額75万円と同額を示談提示したものと思われます。

 

なお、裁判になれば、14級の後遺障害慰謝料だけでも100万円を超える主張は可能です。損害額の詳しい算定も含め、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

Q 30代公務員の男性です。1年前に事故に遭い、治療を続けたものの、右腕の関節機能障害、頚部痛が残り、つい先日後遺障害併合12級の認定となりました。3か月前から仕事に復帰したものの、以前ほど重い物を持てず、パソコン仕事で腕がしびれるため、こまめに休憩をとってストレッチしています。幸い現在は収入減少がないのですが、将来昇進や昇給等に影響が出るのではと心配です。後遺症の逸失利益は認められますか。

A 減収が無くても後遺症による逸失利益が認められると考えます。 

 

減収がない場合の逸失利益

逸失利益は将来にわたる長期間の損害を予測し算定するものです。事故後の短期間に減収がないからといって、直ちに将来にわたる損害が発生しないとは断定できません。

すなわち、労働能力の低下により長期間のうちに昇進、昇給や取引先との関係維持に影響が出てくる可能性は否定できません。

また、仮に勤務先や周囲の理解と配慮、本人の努力によって労働能力の低下をカバーできているとしても、被害者の負担が増大している一方で加害者が賠償責任を免れるのは不合理といえます。

更に、長い将来には転職の際に職種の選択が制限されるおそれもあるでしょう。

 

裁判所が参考にする赤い本でも「逸失利益の算定は労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行う」とされており、事故後の収入減少がないことのみをもって逸失利益を認めないとはされていません。裁判例でも、減収がなくても逸失利益を認めているケースは多くあります。

 

あなたのケースでは、後遺症により以前ほど重い物を持つことができないのですから、仕事上の支障が出ていると思われますし、ご自分の絶えざる努力によって収入減少に至っていないともいえます。将来の昇進、昇給に影響がないとはいえないでしょう。

ただし、保険会社からは減収がないことや、公務員であることなどを理由に逸失利益を否定されたり、低額に抑える主張がなされる場合もあります。

そのような場合、具体的な事実にもとづく説得的な反論をする必要がありますので、弁護士に相談することをお勧めします。

 

 

Q 夫がトラックにはねられて車椅子生活となり、入浴、食事等の介助が必要になりました。また、言葉がうまく出ず、性格も変わり、些細なことで怒ったり物に当たるようになりました。現在、訪問介護や短期入所サービスも利用しながら私が介護していますが、いつまで続けられるか不安です。先日保険会社から、夫の後遺障害等級が2級に認定されたとの連絡がありましたが、私が介護をしていることに関して何か請求できませんか。

A 将来介護費を加害者に請求することができます。

 

将来介護費とは

事故により本人が1人では日常生活を営むことができず、近親者等の付添、介護が必要となる場合、そのために割かれる時間や労力を損害として見積もって加害者に請求することができます。

症状固定前であれば、近親者の付添費用として請求しますが(別項参照)、症状固定後は、認定された後遺障害の程度によって、将来介護費として請求することになります。

 

将来介護費が認められるのは、後遺障害等級1級(常に介護を要する場合)、同2級(随時介護を要する場合)が原則ですが、具体的な状況次第では3級以下でも認められるケースがあります。

 

金額については、将来支出されるであろう費用を見積もる必要がありますが、裁判所の基準では、近親者の付添や介護の場合、常に介護を要する場合で1日につき8000円程度が目安とされています。

常時介護まで要しない場合は、介護の必要性の程度や内容により減額されるケースも多いです。

有料の介護サービス等を利用する場合には、サービス提供業者の利用料等を参考に、近親者の場合よりも高額な将来介護費が認められるケースが多いです。

なお、親族介護と職業介護は二者択一ではありません。平日は親族介護が中心で、週末や一定の曜日は職業介護、公的介護サービスを利用するケースもあるでしょう。そのような場合はこれらを組み合わせて算定します。

 

将来介護費はいつまで認められるのでしょうか。これについては原則として平均余命までの間とされています。

平均余命とは、ある年齢の人があと何年生きられるかの期待値のことです。厚生労働省が統計として公表していますので(簡易生命表)、それを参考にします。

なお、いわゆる植物状態(遷延性意識障害)の場合は平均余命まで生きられないのではないか、もっと短く算定すべきではないかとの主張が保険会社からされることもあります。裁判所はそのように判断すべき明確な事情がない限り、算定期間を短くすることには慎重です。

 

将来介護費の請求は一時金として請求することも、1年毎など定期的に請求することも可能です(いわゆる定期金賠償方式)。

将来介護費は将来の生存を前提に請求できるものであり、加害者が任意保険に加入している場合は定期金賠償が妥当だとの考えも一理あります。

しかし、保険会社が万一破たんすれば請求できなくなりますし、後遺症の逸失利益も一時金として請求していますから、将来介護費を一時金として請求することが理論的におかしいわけではありません。裁判所も、被害者が求めていないのに定期金賠償を命ずることには慎重です。

 

なお、一時金として請求する場合は逸失利益同様、中間利息を控除する必要があることにご注意ください。

 

 


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