請求できる人身損害 ー 死亡逸失利益・葬祭費・死亡慰謝料等

Q 父がトラックにはねられ、治療の甲斐無く先月息を引き取りました。葬儀も済みましたが、保険会社からは四十九日を過ぎて改めて賠償の話にうかがいたいと言われています。父の死亡に関し、私達遺族はどのような請求ができるのですか。葬儀代は請求できますか。

A 死亡に至るまでの治療費、付添看護費、入院慰謝料、死亡による慰謝料、死亡による逸失利益、葬祭費等が請求可能です。

ここでは死亡による慰謝料、葬祭費について説明します(死亡による逸失利益は別項参照)。

 

1 死亡による慰謝料

人の生命を奪われたこと自体に対する慰謝料の請求が認められています。裁判所が参考にする青本では、原則として
一家の支柱の場合 2700万円~3100万円
一家の支柱に準ずる場合 2400万円~2700万円
その他の場合 2000万円~2500万円
とされています。

 

一家の支柱とは、亡くなった方の収入によって世帯が生計を維持している場合をいいます。遺族の扶養をすべき者が亡くなったことを重く見て、他の場合よりも慰謝料が高くなっています。

一家の支柱に準ずる場合とは、主婦、養育を必要とする子を持つ母親、独身者でも高齢の父母や幼いきょうだいを養育したり、仕送りをしている者などが当たります。

その他の場合とは、独身の男女、幼児や子ども、現に職業に就いていない高齢者などが当たります。

 

死亡事案の場合、亡くなられたご本人の慰謝料のみならず、父母、配偶者、子どもにも法律上独自の慰謝料請求権が認められています(近親者固有慰謝料といいます)。したがって、理屈上は本人慰謝料の相続分と、近親者固有慰謝料の両方を請求できることになります。

青本の上記基準額は両方をあわせた死亡被害者1人あたりの合計額とされていますが、具体的な事情により総額で基準額を上回るケースもあります。

 

2 葬祭費 

人は誰しもいずれは死ぬのだから、そもそも葬祭費が損害になるのかがかつて議論されましたが、遺族が支出を余儀なくされたのは事故によって生じた結果に他ならないため、裁判所も社会通念上相当と認められる限度で葬祭費の賠償を加害者に請求できるとしています。

青本では130万円~170万円とされています。

葬儀費用のみならず、仏壇・位牌購入費、墓地購入・墓石建立費などが支出された場合でも、原則として上記限度内で認める考えが一般のようです。

 

香典返しは損害と認めない考えが定着しています。逆に、香典分を葬祭費から差し引くこともしません。

遺体搬送費は、葬祭費とは別に損害として認めたケースもあります。

 

 

Q 高校3年生の息子が帰宅中、センターラインオーバーの車にはねられ翌日に亡くなりました。息子は大学に進学し、将来は商社に入って世界で働くことを夢見ていたのに、無念でなりません。保険会社から示談提示された「死亡による逸失利益」の説明内容がよく分からず、金額もとても納得できるものではありません。死亡による逸失利益の計算について説明していただけませんか。

A 死亡による逸失利益とは、死亡することにより将来得られるはずだった収入の喪失を見積もった損害のことです。

 

死亡による逸失利益

死亡した被害者が生きていれば得られたであろう収入相当額の損害が被害者に発生し、これを相続して加害者に請求できるという考え方のもと、遺族に認められています。

具体的な算定方法ですが、基礎収入 × (1-生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数、というのが一般的です。詳しく見ていきましょう。 

 

基礎収入

亡くなった方の事故前の現実収入額が原則ですが、それ以上の収入を将来得られると認められればそちらが基準となります。

ところで、お尋ねのケースではお子さんは事故当時まだ就労前です。

被害者が幼児や生徒、学生の場合や専業主婦の場合、及び比較的若年で生涯を通じて全年齢の平均賃金又は学歴別の平均賃金程度の収入を得られる蓋然性(がいぜんせい、かなりの確率という意味)が認められれば、基礎収入は全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によるとされています。

これは、以前は各地の裁判所で異なる基準だったものを、平成11年11月に交通事故を専門に扱う東京、大阪、名古屋の地方裁判所の裁判官が協議し、提言したことに由来します(いわゆる三庁共同提言)。

したがって、お尋ねのケースでは原則として賃金センサスの男性労働者の全年齢平均賃金を基礎にすることになるでしょう。

賃金センサスとは、厚生労働省が企業規模や職種によって得られる現金給与・年間賞与等を統計情報としてまとめているものです。

 

生活費控除率

死亡により本来必要な生活費相当分が不要になるので、これを差し引くという意味です。裁判所が参考にする赤い本では、
一家の支柱  被扶養者1人だと40%、2人以上だと30%
女性(主婦、独身、幼児等を含む)  30%
男性(独身、幼児等を含む)  50%
等とされています。

一家の支柱だと扶養義務があるので収入に占める生活費の割合を低くし、男性単身者はそのような配慮が不要ゆえ割合を高くするという考えです。

 

就労可能年数に対するライプニッツ係数

ライプニッツ係数とは、ある一定の金銭を現時点からX年間継続的に得る場合に、それを現時点で一時にもらうとしたらいくらに換算されるか、という観点で算出した係数です。

ちょっと難しいですが、逸失利益は本来将来に向かって継続して発生するものですが、損害賠償においては現時点で一括して算定します。そうすると、理屈上は複利運用が可能ですのでこれを割り引く必要があります(中間利息の控除といいます)。この割引は現在年5パーセントで計算するとされており、実務上、複利年金原価表を利用しています。

 

例えば、喪失期間が10年だと7.7217、20年だと12.4622となっており、単純に10倍、20倍にはならないのがポイントです。現下の金利状況からそんな運用はできないとの批判がありますが、裁判所はこの基準を採用しています(なお、民法の改正によって今後は変化する予定です)。

 

就労可能年数は、原則として67歳までの期間ですが、高齢者の場合は平均余命の2分の1とされています。

 

実際の計算例

以上をもとに逸失利益を計算してみましょう。

基礎収入は、平成27年の男性労働者の全年齢平均賃金によると547万7000円です。

生活費控除率は、独身男性ゆえ50%です。

就労可能年数は18歳から67歳までの49年間ですので、対応するライプニッツ係数は18.1687です。

5,477,000×(1-0.5)×18.1687=4975万4984円となります。

 

次に、お子さんが大学に進学し卒業してから就労を開始したとの前提で計算してみます。

平成27年の男性労働者の大学卒の全年齢平均賃金は、663万7700円です。

生活費控除率は50%で変わりません。

就労可能年数は22歳から67歳までの45年間としますが、対応するライプニッツ係数は、49年間に対応する係数から18歳から22歳までの4年間に対応する係数3.5460を差し引いて計算します。

6,637,700×(1-0.5)×(18.1867-3.5460)=4853万0547円となります。

つまり、18歳から働き始める前提で算定するよりも少なくなってしまいます。

 

お子さんが大学に進学し、卒業後に商社に入っていればそれなりの収入にはなったでしょうから、保険会社の提示額に納得がゆかない気持ちもよく分かります。

しかし、損害賠償額の計算は将来にわたる不確実な事実を現時点で推測する点で、どうしても限界があります。

希望の大学にストレートに合格し、希望の就職先に就職して仕事を全うできたかどうか、神様でもない限り知りようがありません。

死亡による慰謝料等も含めてどの程度まで請求が可能か、弁護士ともよく相談されて対応を検討されてはいかがでしょうか。

 

 

Q 父が交通事故で亡くなりましたが、生前市役所に勤めていたので退職年金の支給を受けていました。年金がもらえなくなった分は、遺族は損害として請求できますか。同居していた母の遺族年金との関係はどうなりますか。 

A 将来もらえなくなる年金分は損害として請求できます。

 

退職年金と逸失利益

退職年金を受給していた方が交通事故で死亡した場合、相続人は加害者に対し、受給者が生存していれば平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を、受給者の損害(逸失利益)として請求できるとされています。

かつては、年金等のいわゆる一身専属性の強い権利を相続人に承継させるのは妥当かどうかという議論があったようですが、裁判所はこれを肯定しています。

同様に、国民年金、障害基礎年金等も、裁判所は受給者の逸失利益性を認めています。

 

具体的な計算方法は、死亡時点の年金額 × (1-生活費控除率) × 平均余命期間に対応するライプニッツ係数となります。生活費控除率、ライプニッツ係数については前項をご参照ください。

なお、生活費控除率について、年金生活者は年金の多くを生活費に充てているとの理由で通常よりも高い割合(50~60%)とする裁判例が多いようですが、ケースバイケースで判断されます。

他方で、遺族年金の受給者は損害として請求できる分から一定額が除外されます。

 

お尋ねのケースでは、あなたのお母さんは法律上遺族年金の受給権がありますので、退職年金の相続分とあわせて請求できるとすると二重の利得になるのではという点が問題となります。

この点について、裁判所は、支給を受けることが確定した遺族年金の限度で損害額から控除すべきだが、それ以外の将来分は控除の必要はないとしています。

例えば、示談の時点でお母さんが遺族年金を80万円受給しており、来月20万円を受給することが確定していれば、たとえ逸失利益の相続分が500万円だとしても、80万+20万=100万円だけを控除すれば足り、残り400万円は加害者に請求できるということになります。

将来にわたって逸失利益から控除しないのは、遺族年金は受給者が結婚したり死亡した場合には法律上受給権を喪失するとされており、将来にわたって存続、履行が確実なものではないことが根拠とされています。

このような考え方にはいろいろ意見もあるのですが、実務はこの考え方によっています。

 

なお、お尋ねのケースと異なり、遺族年金を受給していた妻が交通事故で亡くなった場合には、相続人の逸失利益は否定されています。遺族年金は受給者自身の生計の維持を目的としたものであることが理由とされます。違いにご注意ください。

 

 


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