遺産分割の協議・調停・審判、配偶者居住権の新設

Q 先日母が亡くなり、相続人は私と弟、妹の3人です。遺産は福岡市内の母名義の自宅と預貯金です。私は母と同居していましたが、弟は東京、妹は神戸にいます。四十九日を前に遺産分けの連絡をすると、弟は「預貯金の出し入れ状況をまず説明してほしい」といい、話し合いがまとまるか不安です。話し合いができないと裁判所の手続が必要と聞きましたが、どういう手続ですか。また、どのような準備が必要ですか。

A 協議がまとまらない場合、遺産分割の調停や審判をする必要があります。

 

遺産分割の協議・調停・審判

被相続人が遺言で分割方法を定めたり、分割を禁じている場合を除き、遺産は共同相続人間でいつでも協議により分割できます。

この場合、お互いの法定相続分にこだわらず、自由に割合を決めることができます。妹が「私は母の形見の着物だけもらえればいい」と言えば、不動産や預貯金を妹が相続せず、あなたと弟だけで相続することも可能です。

しかし、共同相続人間で協議ができなかったり、協議がまとまらない場合、解決するには家庭裁判所で遺産分割の調停(ちょうてい)や審判(しんぱん)をしなければなりません。

 

調停と審判の違いは、裁判所での話し合いか、判断手続かという点です。審判は裁判に近いイメージになります。

いずれの手続を申立ててもよいのですが、裁判所では調停を経ずに審判が申し立てられると、いつでも職権で調停手続に付すことができるとされており、実際にほとんど調停に付されます(調停前置といいます)。当事者間の話し合いになじむ手続は、できるだけ調停を先行させようという趣旨です。

 

調停手続きでは、民間から委嘱された男女の調停委員2名が、双方から交互に事情や意見を聴き、必要な資料の提出を受け、双方が納得する提案を裁判官も交えて協議(評議といいます)し、お互いの合意を目指します。

合意に至れば、その内容を裁判所が調停調書という書面に記載し調停が成立します。これは裁判と同じ効力を持ちますので、預金の払い戻し、不動産の名義変更等に利用することができます。

 

調停での合意が成立しない場合、調停は不成立となり審判手続に移行します。双方からの主張、証拠提出等を経て、最終的に裁判官の判断(審判)が、審判書という書面で示されることになります。

 

具体的な申立て手続

申立に際しては、共同相続人全員が参加しなければなりません。お尋ねのケースでは、あなたが申立人となり弟と妹を相手方として申立てをするか、妹の了解を得てあなたと妹が申立人となり、弟を相手方として申立てをする必要があります。

 

どこの裁判所に申立てをするか(管轄の問題)ですが、調停の場合は相手方の住所地か、当事者が合意で定める家庭裁判所とされています。審判の場合は相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所とされています。

したがって、あなたが調停を申し立てる場合は東京か神戸の家庭裁判所にしなければなりません。福岡の裁判所に申立てても、他の裁判所に事件が送られるのが原則です。したがって、福岡の家庭裁判所で調停をしたければ、3人で管轄の合意をしておく必要があります。

 

申立てには申立書を作成しますが、当事者及び法定代理人、申立の趣旨及び理由、特別受益の有無を記載するほか、遺産目録を添付する必要があります。書式は裁判所に備え付けているほか、裁判所のホームページからダウンロードすることもできます。

 

そのほかにも、相続人全員の戸籍謄本、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍(除籍謄本、改製原戸籍)謄本、相続人全員の住民票又は戸籍附票、遺産に関する各種の証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券の写し等)の提出が必要です。

また、申立用の収入印紙1200円や、郵便切手数千円分を納める必要があります。

 

実際の手続に際して、戸籍関係の書類を集めるだけでもかなりの手間暇がかかりますし、遠方の妹が毎回調停に参加するのは大変です。テレビ会議や電話会議システムによる調停、審判もできることにはなりましたが、弁護士に相談して手続を委任することもご検討ください。

 

 

Q 父が亡くなった後、兄から「実家の不動産の名義変更に必要だから、書類に実印を押して印鑑証明を付けて送り返して」と連絡がありました。届いた書類には「私は被相続人からすでに相続分に等しい贈与を受けているので、被相続人の相続については受けるべき相続分がないことを証明します」とあります。この書類に印鑑を押すとどうなりますか。

A あなたは遺産を全く取得できず、遺産分割を請求できなくなる可能性があります。

 

相続分のないことの証明書

兄が送ってきた書類は一般に、「相続分のないことの証明書」とか「特別受益証明書」といわれているものです。

民法では、相続人のうち被相続人から生前に生計の資本としての贈与(特別受益といいます)を受けた者は、贈与の価額が相続分の価額に等しいか超えていると、相続分を受けられないとされています。そこで、この趣旨に沿った証明書を作成すれば、遺産のほとんどを他の相続人に帰属させることができるのです。

 

特に不動産の相続登記において、この証明書に実印を押して印鑑証明書を添えて手続をすることが認められているため、面倒な遺産分割手続や相続の放棄をせずに、特定の相続人に不動産を承継させる便法としてよく利用されています。

 

相続の放棄との違いですが、相続の放棄は相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に手続をしなければなりませんが、この証明書には時間的な制約がありません。

また、この証明書による場合は証明書を取得した相続人が手続をするのが通常ですので、自分で戸籍謄本を取り寄せたり裁判所に申立をする必要がありません。

 

他方で、相続の放棄ではプラスの財産だけでなく負債(借金)も引き継ぎませんが、この証明書はプラスの財産がないと言っているだけで、負債の承継を免れることはできず、後で被相続人の債権者から支払の催促を受ける可能性があります。

 

それでは、この書類に印鑑を押して兄に渡した後、「実際には贈与を受けていないから無効だ」と主張し、改めて遺産分割の請求ができるでしょうか。

結論からいうと、そのような主張は難しいと思われます。というのも、たとえ証明書の内容が事実と異なっていても、証明書を作成したことにより相続人間で新たな合意がなされたとみて、実質的に遺産分割協議が成立したと評価されるおそれがあるからです。

ただし、兄から脅されたりだまされたりした結果、印鑑を押したような場合は別ですが。

 

したがって、もしあなたが遺産についての権利を主張したいのであれば、この証明書に安易に印鑑を押すべきではなく、正式に遺産分割の協議を兄に求めるべきでしょう。

 

 

Q 相続に関する法律が変わり、残された妻が安心して自宅に住み続けることができつつ、預貯金なども多く相続できる制度ができたと聞きましたが、どのような制度でしょうか。

A 新設された、配偶者居住権の制度のことです。

 

配偶者居住権の創設

配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、原則として亡くなるまでその建物を無償で使用する権利のことです。2020年4月1日より認められる権利です。

 

これまで、被相続人の遺産の大部分が居住不動産であるようなケースでは、配偶者は他の相続人から遺産分割を要求されると、たとえ2分の1以上の法定相続分があったとしても、他の相続人に遺産を分与するため、建物を売却して代金を分割せざるを得ない場合がありました。

しかし、それでは高齢の配偶者の場合、住み慣れた住居を離れ、他の場所で生活を始めざるを得ず、その負担はとても大きいものになります。

 

そこで、建物についての権利を「配偶者居住権」と「配偶者居住権付きの所有権」に分けて、配偶者居住権については配偶者に取得させて、自宅に住み続けることを可能としました。この権利は、遺産分割協議、遺贈、死因贈与、遺産分割の審判のいずれかによって取得されるとされています(相続させる遺言ではできません)。

配偶者居住権は他人に売ったり貸したりできないため、建物の所有権よりは評価が低くなります。そのため、他の遺産(預貯金等)についても配偶者がこれまで以上に取得できるようになります。

具体例で見てみましょう。

 

相続人:妻、一人息子

遺産:自宅(評価額2000万円)、預貯金3000万円

 

法定相続分は2分の1ずつですので、全体の遺産に対してそれぞれ2500万円ずつ主張できます。これまでですと、妻が住み慣れた自宅を取得しようとすれば、預貯金は500万円しか遺産分割で主張できませんでした。

 

これに対し、仮に自宅の配偶者居住権の評価が800万円、配偶者居住権付きの所有権が1200万円とすると、妻は自宅に無償で住み続けながら、預貯金についても1700万円を遺産分割するよう主張できることになり、妻の老後の不安はかなり軽減されるでしょう。

 

問題は、「配偶者居住権の価格をどのように評価すべきか」です。評価方法について、現時点で確立していないようですので、配偶者居住権付きの所有権を取得することになる相続人の負担は大きいといえます。

そのため、遺産分割や遺留分侵害などで争われる余地が大きく、この制度がどの程度利用されるかは、今後の議論、検討をふまえる必要があるでしょう。

 

配偶者短期居住権の創設

配偶者居住権を設定するかどうかとは別に、配偶者は、相続開始時に被相続人が所有する建物に無償で住んでいた場合、引き続き遺産分割が成立するまでの間、当然に建物に無償で住み続けることができます。

また、遺言によって建物が第三者に遺贈された場合であっても、新たに建物を取得した者からの申入れから6か月間は、配偶者は当然に建物に無償で住み続けることができます。

これらの権利を配偶者短期居住権といいます(これも2020年4月1日から認められる権利です)。

 

なお、前述の配偶者居住権については、登記手続きをしなければなりませんが、こちらの配偶者短期居住権はそのような必要はありません。