示談提示への対応・素因減額・過失割合とは

Q 信号機のない交差点で車どうしの出合い頭事故に遭い、修理工場に修理をお願いしました。相手の保険会社に修理代を請求すると、「あなたにも過失割合がありますので全額の支払いはできません。当方の契約者からも修理代が請求されますよ」と言われました。過失割合とは何ですか。私の修理代の全部は請求できないのですか。

A 過失割合とは、お互いの不注意が原因の事故の場合に、相手方に請求できる損害の割合を数字で示したものです。

全体を10として3対7、全体を100として35対65、などと示されます。

 

過失割合を検討する意味

事故があなたの不注意にも原因がある場合、損害の全てを相手方に請求することはできず、相手方の過失割合分だけしか請求できません。そして、事故態様によって過失割合の予測がつくよう、一定の基準が裁判官の研究会によって公表されています。

例えば、あなたのケースで道路幅がお互い同程度、お互い同程度のスピードで衝突し、あなたの車が相手方の左方に位置していた場合、過失割合はあなたが40、相手方が60というのが基本です(もちろん、具体的な状況により異なる場合があります)。

そうすると、仮にあなたの修理代が50万円の場合、相手方には50万円×0.6=30万円しか請求できません。

他方で、相手方の修理代が60万円なら、相手方はあなたに60万円×0.4=24万円を請求できます。

 

これらをお互いに払うことで示談してもよいですが、差額分を払う示談とすることもできます。

この場合、30万円-24万円=6万円を相手方があなたに払い、あなたは相手方に全く支払わない内容で示談することになります。

結局、あなたは50万円の損害が発生したのに相手方からは6万円しか弁償してもらえないのです。

 

「それでは修理ができないよ!」そのような場合に備えるのが車両保険の役割です。

あなたが車両保険に入っていれば、修理代はあなたの保険会社から修理工場に支払われます。その後、保険会社はあなたが請求できるはずだった30万円を相手方に請求します。

 

なお、翌年以降の自動車保険料は高くなりますが、相手方への24万円の弁償を対物保険で対応するのであれば同じことといえるでしょう。保険料の増額分は、保険会社に尋ねれば教えてもらえます。

 

 

Q 保険会社から示談の提示がありましたが、金額が妥当かどうかよく分かりません。交通事故の賠償には複数の基準があると聞いたことがありますが、実際はどうなっていますか。

A 自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、裁判所の基準の3つがあるとされています。

 

自賠責保険の基準

自動車を運転する際に必ず加入してなければならない自賠責保険(強制保険)の基準です。

交通事故の人身被害者を迅速に救済するために国が定めた基準であり、過失割合が厳しく問われない(被害者の過失割合が7割未満の場合は減額されません。)のがメリットです。

他方、保険金の上限額が低く十分な賠償が得られない(例えば傷害の場合はどんな怪我でも120万円まで)、物損事故が支給の対象外であるのが難点です。

 

任意保険会社の基準

任意保険会社の契約者が事故を起こした場合に、保険会社として被害者に支払う基準です。

保険会社は国の免許を得て保険業を行っています。自賠責保険ではまかなえない被害者の損害をカバーするために、自動車を運転する方が「任意に」契約する保険であり、「上乗せ保険」ともいわれます。

現在保険内容は自由化されていますので、それぞれの保険会社によって支払内容には違いがあります。

自賠責保険よりも支払基準額が高く、物損事故もカバーしていますが、裁判所の基準よりは低い(特に後遺症の事案)のが難点です。

 

裁判所の基準

長年にわたる交通事故の裁判事案を分析検討し、一定の基準として公表されているものです。

代表的な基準として、青本(公益財産法人日弁連交通事故相談センター編)、赤い本(同センター東京支部編)があります。裁判所は被害者の損害を証拠に基づき法律に照らして判断しますので、保険会社の定めた基準には拘束されません。したがって、最も高い算定基準となります。

他方、裁判を前提とするため示談交渉よりも解決までに時間と手間がかかるのが難点です。

 

具体的な例として、むち打ち症に多い後遺障害等級14級の後遺症慰謝料を比較すると、
自賠責保険の基準では、32万円
任意保険の基準では、40~50万円
裁判所の基準では、90~120万円、となります。

 

被害に遭われた方からの依頼を受けて加害者(保険会社)と交渉する場合、弁護士北村は裁判所の基準を前提に損害額を算定し、交渉することを基本スタンスとしています。

その上で、訴訟解決までの時間や過失割合、既払い(内払い)額の控除による損害残額等を総合考慮の上、依頼者の意向もふまえて柔軟に対応することとしております。

 

 

Q 追突事故に遭い、後遺障害等級14級の認定が下りましたが、保険会社からの示談提示額に納得がゆきません。自分で調べて増額を要求したところ、「これ以上は無理です。後は弁護士に依頼されるなりしてください」と言われました。どうして加害者は保険会社が交渉するのに、被害者の私は弁護士に頼まないといけないのですか。私の加入している保険会社は代わって交渉できないのですか。

A 加害者は自分の保険会社に示談交渉を依頼できますが、被害者は自分の保険会社に示談交渉を依頼することはできません。ご自分で請求するか、弁護士に依頼するのが原則です。

 

示談代行と弁護士法の関係

任意保険の契約約款(やっかん)では、契約者(加害者)が事故による損害を賠償しなければならない場合、保険会社が代わって示談を行うことが定められています。これを示談代行制度といいます。

今日、ほとんどの事故では示談代行が行われており、加害者が示談手続に関与することは、正式な示談書を作成する時以外はほとんどありません。

事故に不慣れな加害者に代わり、知識や経験の豊富な保険会社の担当者が示談手続一切を行ってくれるため、加害者にとっては大変メリットがあります。ただし、被害者が保険会社との交渉に同意しない場合は、加害者も弁護士に依頼せざるを得なくなります。

 

これに対し、被害者が加害者に賠償を請求する場合は保険会社の援助を受けられません。

これは弁護士法によって、弁護士以外の者は他人の事件の示談交渉や訴訟等の法律事務を業務として行えないとされているからです。

なお、示談代行制度が登場した当時、弁護士法に反するのではとの議論がありましたが、被害者が加害者の保険会社に直接請求できる権利を約款に規定する(=保険会社にとっては他人の事件ではなくなる)、示談代行は保険会社の社員が直接行い歩合報酬とはしない等の条件のもと、弁護士法には抵触しないと確認されています。

 

「自分は何も悪くないのに、どうして自分で交渉しないといけないのだ!」そのような場合に備え、被害者が弁護士に依頼する費用をカバーする保険が弁護士費用等担保特約、いわゆる弁護士費用保険です。

この保険により、弁護士への法律相談、示談交渉、調停、訴訟等を依頼する際の費用が保険から出ることになります(被害者1事案について300万円程度の上限があります)。

 

なお、この特約を付けても車両保険のように保険料が大幅に上がることはなく、特約を利用してもノンフリート等級が下がって翌年以降の保険料が上がる心配もありません。大変利用価値がある保険ですので、忘れずに加入することをお勧めします。

 

 

Q 先日後遺障害の等級認定が下り、保険会社からの示談提示がありましたが、「頚椎の椎間板ヘルニアの既往症がありますので、○割の素因減額となります」との記載がありました。しかし、事故前は仕事も普通にできていたのに、事故後は首から肩、腕にかけてのシビレが残り、疲れやすくなりました。素因減額とは何ですか。事故によってヘルニアを発症したとしか考えられませんが、賠償額が減額されるのですか。

A 素因(そいん)減額とは、被害者の心因的な要因や身体的な特徴が損害の発生や拡大に影響しているときに、これを斟酌(しんしゃく)して賠償額を減額する考え方です。

 

素因減額とは

被害者の特異な性格や過剰反応(心因的素因)によって、通常の想定を超える損害が発生している場合、全てを加害者に負担させるのは酷な場合があります。

また、被害者に既往の疾患(身体的素因)があり、これと事故とがあいまって損害が発生・拡大している場合も、全てを加害者に負担させるのは酷な場合があります。

このような場合に、賠償額の一定割合を減額させて当事者間の公平を図るのが素因減額の考え方であり、裁判所も認めるところです。

 

お尋ねのケースでは身体的素因による減額の主張がなされていますが、椎間板ヘルニアが事故前からの既往症といえるかがポイントになります。

一般に、頚部の椎間板は20代後半から退行変性が始まり、組織片が神経根や脊髄を圧迫して神経症等を発症すると言われています。10代~20代での発症はまれで、中高年齢で生じることが多いとされますが、具体的な事故状況によっては衝撃により頚部に強い外力が加わったために発症したとも考えられ、その場合には素因減額すべきではないといえます。

 

仮に、既往症と判断されたとしても、事故の加害行為とともに原因となって損害が発生、拡大したのかどうかを次に検討します。例えば、事故内容からみて既往症を考慮しても、治療期間が特に長くなったとは評価できないのなら、あえて素因減額する必要はないといえるでしょう。

 

椎間板ヘルニアが既往の疾患に当たるのか、本当に素因減額に応じなければならないほどの損害が発生したのかは、慎重に検討する必要があり、安易に減額に応ずるべきではありません。弁護士に一度相談されることをお勧めします。

 

 

 


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