遺言とは・遺言の方式

Q 私が亡くなった後、子ども達が相続でもめないよう遺言を書こうと思います。遺言を書くときはどのような点に気をつければよいですか。また、どのようなことまで遺言で決めることができますか。

A 民法が定める厳格な要件に反しないよう、細心の注意が必要です。

遺言は故人の生前の意思表示ですが、死後に効力が発生するため、内容が不明確でも後から尋ねようがありません。他人による偽造、変造を防ぐ必要もあります。そのため遺言に関して民法では細かい要件を定めています。 

 

代表的な遺言の方式には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。ここでは自筆証書遺言を前提に説明します。

 

自筆証書遺言とは

読んで字のごとく、遺言者が「自ら筆をとって作成する」遺言のことです。

まず自ら字を書く必要があります(自書といいます)。目が見えないなどの理由で字が書けない方は、この遺言を作成することはできません。代筆は認められておらず、パソコン等で作成しても無効とされています。あくまで全文を自分で手書きする必要があります。

 

作成日付も必要です。遺言は何度でも作成できますが、同一の事柄について異なる内容の遺言があれば、時間的に後に作成された遺言が優先し、前の遺言はその部分を撤回したものとみなされます。日付は重要であり、日付けのない遺言書は無効とされています。

「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された遺言書について、日付の記載を欠くとして無効とされた有名な判例があります。ただし、「平成25年3月春分の日」など日付が具体的に確定できる場合は有効とされています。

 

署名もする必要があります。戸籍上の本名だけでなく、遺言者が通常使用している雅号、芸名、屋号でも同一性が確かめられれば問題ないとされています。

 

最後に印鑑を押すこと(押印)が必要です。印鑑は実印である必要はなく認め印でもよいとされていますが、後の争いを避けるためにも実印を押すのが無難です。

遺言書が複数枚にわたるときでも1通の遺言書として作成されているなら、日付、署名、押印はそのうちの1枚にあれば足りるとされていますが、争いが生じないよう契印(文書の継ぎ目に押印すること)があったほうがよいでしょう。

 

遺言書の訂正

遺言書を書いている途中で間違ったり、後から追加したい場合はどうしたらよいでしょうか。

この場合、一から書き直すのは大変ですので訂正等もできるのですが、偽造等を防止するため、変更した後、①変更場所に押印する、②変更場所を指示して変更した旨を付記する、③変更した後に署名する、ということが必要です。

 

例えば預金のうち「弐百万円を相続させる」を「参百万円を相続させる」に変更する場合、弐を参に訂正するだけでは足りず、①弐の字に押印し、②上部の欄外等に「この行一字訂正」と記載して、③署名するという作業が必要になります。

ただし、明らかな誤記・書き損じの場合は、ここまで厳格な方式が取られなくても有効な遺言と解されています。

 

遺言で定められる事項

何でもかんでも遺言で定められるのではなく、法律上一定の行為に限られます。主な事項は次のとおりです。

1 認知。結婚していない男女間で生まれた子について、法律上子と認める手続です。

2 財産の処分。遺贈がメインですが、寄付行為もできます。

3 未成年後見人、未成年後見監督人の指定。自分の死後残される幼子のために、親代わりとなってくれる者を指定することです。 

4 推定相続人の廃除、排除の取消。親を虐待するドラ息子が将来相続できないようにしたり、それを取り消す制度です。

5 相続分、遺産分割方法の指定、遺産分割の禁止等。法定相続分の割合によらずに相続分を決めたり、遺産分割の方法や5年内の分割禁止を定めることができます。ただし遺留分には注意します(別項でご説明します)。

6 遺言執行者の指定。遺言の内容を実行してくれる者をあらかじめ決めておくことです。

 

ところで、法が認める以外のことを記載したからといって、遺言が無効になったり無意味であるということではありません。「子ども達よ、今後も仲良くするように」とか、「長男には生前多くの援助をしたから、相続に際して次男に多くを譲ることとした」等と記載すれば、あなたの遺志を残された家族が尊重して話し合うことも期待できるでしょう。

 

自筆証書遺言は遺言者が自由に誰にも知られずに作成できるのがメリットですが、紛失したり、偽造されるおそれや、作成時の判断能力を巡って後で争いになる可能性があることがデメリットです。

自分で作成するのが難しそうな場合、弁護士に相談する、あるいは公正証書遺言を作成することもご検討ください。

 

 

Q 亡くなった後のことを考えて遺言を書こうと思いますが、作り方を間違えないか心配です。公証役場に頼めば遺言を作ってもらえると聞いたことがありますが、実際はどうなっていますか。

A 公正証書遺言を作ってもらうことができます。

 

公正証書遺言とは

公証人という、法務大臣が任命する公務員によって作成される遺言のことです。

公証人は公正証書遺言を作成するにあたり遺言者の意思(判断能力)や内容を確認しますので、自筆証書遺言と異なり、遺言者が「だまされたり脅されて遺言を作った」とか、「認知症でよくわからなかったはずだ」等と争われる余地が少なく、偽造や変造のおそれもないといえます。

 

作成した遺言の原本は公証役場に保管され、紛失のおそれもありません。さらに昭和64年1月以降、公正証書遺言の情報(遺言者の氏名や生年月日、作成年月日等。内容は含みません)がデータベース化されており、遺言の有無の照会ができます。

遺言者が生存している間は本人以外には回答できませんが、除籍謄本等によって遺言者が亡くなった事実や法律上利害関係があることを証明すれば、遺言の有無、保存している公証役場を回答する扱いがされています。

 

公正証書遺言の作成手順

当然ながら遺言の内容はご自分で考える必要がありますが、まずはお近くの公証役場に連絡をして公正証書遺言を作成したい旨を伝え、一度足を運び、どのような資料を用意したほうがよいか、費用(作成手数料)がいくらかかるか等を尋ねることをおすすめします。

 

作成に際しては、証人2人立会いのもとで、遺言者が遺言の内容を口頭で伝える必要があります(口授、くじゅといいます)。公証人は口授の内容を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、又は閲覧します。

口授に際しては、内容の全部を遺言者が発言し伝えることが原則ですが、複雑な内容の場合などには全部を間違いなく口授できない可能性もあります。そこで、あらかじめ公証人に内容を書面で交付し、公証人が遺言の原稿を用意して、遺言者が「遺言の趣旨は先に交付した書面のとおりです」と陳述した場合でも問題ないとされています。

 

遺言者と証人が筆記の正確なことを確認した後、各自が署名、押印します。遺言者が署名できない場合は公証人がその事由を付記して署名に代えることができますので、字が書けない方でも作成できます。さらに法律の改正により、聴覚や言語機能に障がいのある方も、通訳人による通訳によって公正証書遺言をすることができるようになっています。

 

最後に、公証人が公正証書遺言の方式にしたがって作成した証書であることを付記して署名・押印し、完成です。

 

証人は、未成年者、推定相続人、受遺者、これらの配偶者及び直系血族等はなれません。どうしても適当な証人がみつからない場合、公証役場で証人を手配してくれることもあります。もちろん相談を受けた弁護士も証人になれます。

 

遺言者が病気や高齢等のために公証役場に出向くのが無理な場合、公証人に病院、老人ホーム等に出向いてもらって公正証書を作成することも可能です(手数料の加算や日当、交通費等はかかります)。

 

公正証書遺言のデメリットは、証人2人には遺言の内容が知られてしまうこと、作成にお金がかかることですが、後日の紛争を防ぐための負担やコストと考えることもできます。

日本公証人連合会によると、2000年に約6万件だった公正証書遺言の作成件数は、14年に初めて10万件を突破したとのことで、今後も相続争いを防ぐために増加するものと思われます。自筆証書遺言がよいか公正証書遺言がよいかも含め、弁護士に相談されることをおすすめします。