人身傷害保険とは

Q 父が交通事故で亡くなりました。私が遺族を代表し加害者の保険会社と交渉していますが、「お父様にも過失がかなりありますので、過失相殺を主張します」と言われています。父が入っていた保険の代理店に尋ねたら、「人身傷害保険がありますから、保険金を請求することも含めて弁護士さんに相談したらどうですか」とアドバイスを受けました。人身傷害保険とは何ですか。保険金を受け取ると加害者に何も請求できなくなりはしませんか。

A 人身傷害保険とは、自動車の運行に起因する事故などにより被保険者が死亡、後遺障害、傷害を負ったときに損害を保険金として受け取ることのできる保険です。

 

従来の自動車保険は、事故を起こした際に被害者に賠償する損害をカバーするためのものでした(いわゆる賠償責任保険)。これに対し、被害者が自ら(あるいは親族が)加入する保険から損害を補てんしてもらえるのが人身傷害保険です。

同じく被害者が自ら加入する保険から保険金をもらえるものとして搭乗者傷害保険がありますが、同保険は傷害の部位や症状に応じて「一定額」の支払いとなっています。人身傷害保険は保険金額を限度に「実際の損害額」を支払う点で、手厚い保障となっています。

平成10年に大手損害保険会社が開発、販売しましたが、瞬く間に他社の保険にも取り入れられ、現在では自動車保険の主流をなすに至っています。次の2点が大きなメリットです。

 

1 速やかに保険金の支払いが受けられる

自分側が契約する保険会社に請求するため、加害者やその保険会社に連絡したり、時に交渉をするなどして支払ってもらう必要がありません。自損事故やひき逃げ、不可抗力の事故でも支払を受けられます。ご自分の治療費の支払いなどでよく利用されています。

 

2 加害者の賠償責任の有無にかかわらず受け取れる

自分に過失があるケースでも、その割合いかんに関係なく、保険金額を限度として損害の補てんを受けられます。過失の分だけ治療費の負担を減らされる心配はありません。

このように見てくると、人身傷害保険はいわば、「車両保険の人身損害版」と考えることができます。

 

他方で、最大のデメリットは、保険金の支払基準が裁判所の認定基準よりも低いケースが多いことです。例えば、死亡による慰謝料を見ると、裁判所の基準(赤い本)では2000万円~2800万円ですが、保険会社の基準では1600万円~2200万円などとなっています。

そうすると、被害者の過失割合が大きいケースでは、まずは人身傷害保険の保険金を受領し、裁判所の基準による損害額との差額を相手方に請求するのが合理的といえるでしょう。

 

具体的な事例

ところで、人身傷害保険金を支払った保険会社は、車両保険と同様に被害者に代わって加害者に請求できる権利(求償といいます)が認められています。そうすると、被害者が保険金では足りない損害部分を相手方に請求する場合に、保険会社との関係でどこまで主張できるのかが問題になります。

具体的に見てみましょう。

例】亡父の損害額合計が裁判所の基準では8000万円となる
人身傷害保険の基準では5000万円となる
過失割合は、亡父70%、加害者30%

 

裁判所の考え方は、「被害者には人身傷害保険金と過失相殺後の損害賠償金により、裁判所の基準による損害額を確保させるべきだ」というものです。それが人身傷害保険の趣旨・目的に合致し、保険契約者一般の理解に合っていると考えます。

したがって、被害者の過失割合70%に相当する損害は8000万円×0.7=5600万円であり、保険金5000万円では足りないため、保険金全額を被害者は受け取ることができます。

その上で、加害者の過失割合30%に相当する2400万円を裁判で請求することができますので、これが認められると5000万円+2400万円=7400万円をトータルで確保することができます。

 

この場合に、保険会社が加害者に請求できる金額はゼロです。もともと被害者に7割の過失があり、加害者には3割(2400万円)の請求しかできなかったのですから、その分は全て被害者に権利行使させるべきだからです。

 

上記の例で、過失割合が亡父40%、加害者60%だった場合はどうでしょうか。

被害者の過失割合40%に相当する損害は8000万円×0.4=3200万円であり、保険金5000万円を受け取ると、1800万円部分は加害者の過失割合60%に相当する4800万円の一部を保険会社が被害者に先払いしたことになります。

したがって、被害者は4800万円-1800万円=3000万円に限り、裁判で請求することができます。これが認められると5000万円+3000万円=8000万円満額を確保することができます。

そして、保険会社は被害者に代わって1800万円を加害者に請求できることになります。

 

「なんだか途中から頭の中がこんがらがってしまった!」それなら保険代理店の方も勧められるとおり、迷わず弁護士にご相談ください。

 

 


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